2000年9月、名古屋の3分の1が浸水した。浸水しなかった工場も、止まった。

愛知県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。

2000年9月11日から12日にかけて、停滞前線に台風14号の湿った空気が流れ込み、愛知県は記録的な豪雨に見舞われました。名古屋地方気象台の観測は、日降水量428.0mm(観測史上1位)、1時間最大97.0mm。2日間の総雨量は567mmに達しました。新川の堤防が決壊し、県内の河川の破堤は45か所、浸水した家屋は約68,000棟に及びました。

県内の完成車メーカーは、全国の工場で操業を停止しました。浸水を免れた事業所でも、道路が水没して従業員が出勤できず、操業の中止を余儀なくされました。名古屋市と県下の中小企業の経済的な被害は、2,700億円を超えました。

建物が無事でも、道路と人と電気が止まれば、仕事は止まります。そして愛知が次に備えるのは、これを桁違いに上回る想定です。県が2026年に公表した被害予測(過去地震最大モデル)では、断水は最大約698万人、停電率は最大約89%、避難者は最大約158万人、帰宅困難者は約91万人。

「自社の建物が無事なら、翌日から通常操業」という前提は、愛知では成り立ちません。事業継続は、その前提の置き直しから始まります。

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「愛知は南海トラフが危ない」では、何も決められない

愛知県は2026年、国の調査と整合を図りつつ最新のデータを反映した南海トラフ地震の被害予測を公表し、震度、液状化危険度、津波到達時間、津波高、浸水深を、県の防災学習システムの防災マップで閲覧できるようにしました。必要なのは県平均の危機感ではなく、自社、工場、倉庫、主要取引先、配送経路の住所で確かめること。そして愛知では、地震だけ見ても足りません。高潮と都市型水害が、もう一組のリスクをつくります。

カード1: 地震・液状化 —— 「揺れ5.0万棟、液状化1.7万棟」の二段構え

過去地震最大モデルでは、全壊・焼失は約9.2万棟。内訳は、揺れで約5.0万棟、液状化で約1.7万棟、浸水・津波で約4,600棟、火災で約2.0万棟です。死者は、早期避難率が低い場合で約5,300人、早期避難率が高く避難の呼びかけがあった場合で約2,900人。理論上最大モデルの浸水・津波による死者は、早期避難率が低い場合で約14,000人、早期避難率が高く避難の呼びかけがあった場合で約5,200人と推計されています。

液状化1.7万棟という数字は、愛知の特徴です。尾張西部の低地と港湾の埋立地では、建物が「倒れない」だけでは足りません。傾き、配管、地盤、臨港道路まで含めて確認する必要があります。

被害予測は特定のモデルと条件に基づく想定であり、確定予測ではありません。対策と避難行動で、大きく減らせます。

カード2: 津波・高潮 —— 「豊橋に最短5分、田原に最大20.2m」

理論上最大モデルでは、豊橋市に地震後最短5分で30cmの津波が到達し、最大津波高は田原市で20.2mです。海岸部と河川の付近では、堤防の被災により、津波の到達前から浸水が始まる地域もあります。

高潮は別立てで確認してください。県は、室戸台風規模・堤防等決壊ありの高潮浸水想定区域図に加えて、堤防等決壊なしの高潮浸水予想図(室戸台風規模・伊勢湾台風規模)も公表しています。名古屋港周辺、知多、西三河、東三河の沿岸の事業所は、地震・津波と高潮を重ねて住所を確認してください。

沿岸と河川に近い事業所は、「警報を待って判断」ではなく、揺れた時点での避難開始、帰社の禁止、立入再開の権限者を、先に決めておくことです。

カード3: 都市型水害 —— 東海豪雨は「浸水域の外」まで止めた

2000年の東海豪雨では、庄内川の越水、新川の破堤、内水氾濫で名古屋市周辺の19km²が浸水し、約29,000人が避難、庄内川流域で18,000戸超が被災しました。県全体の浸水は約68,000棟です。

実災害が示した停止像はこうです。道路の冠水と鉄道の停止で、浸水しなかった事業所も、通勤不能、配送不能になった。水害BCPは、止水板と保険では完結しません。従業員の自宅、仕入先、配送ルートまで広げてください。

1時間50mm以上の雨は、全国で、1976〜1985年の10年間と2015〜2024年の10年間を比べると約1.5倍に増えています。「前例のない雨」は、前例になりつつあります。

2026年9月8日、名古屋では日最大1時間降水量104.5mmを観測し、観測史上1位となりました。

2026年9月8日の大雨で被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

カード4: 帰宅困難・移動制約 —— 県全体で約91万人

帰宅困難者は約91万人、避難者は最大約158万人の想定です。名古屋市だけで事業所117,344、従業者約145万人が集積し、本社、卸売、金融、専門サービスの機能が同時に移動の制約を受けます。

西三河の工場が無事でも、名古屋側の受発注、決済、通関、顧客対応が止まれば、取引は滞ります。「製造拠点」と「都市機能」を、別々の経済圏として見ないでください。

ハザードマップ: 愛知県 南海トラフ地震被害予測調査(2026年公表・防災マップ連携)/愛知県 高潮浸水想定区域図

愛知はこの30年で、繰り返しそれを経験している

AIで生成したイメージ画像。岸壁で乗用車を積み込む自動車運搬船。
AIで生成したイメージ画像です(実在の風景ではありません)。

一社の停止が、全体を止めた —— 1997年・2016年

1997年2月、自動車部品メーカーの工場で火災が起き、完成車メーカーは全ラインを休止しました。

自社の工場が止まったとき、代わりに作れる相手はいるか。取引先が止まったとき、次に頼める先はあるか。企業同士の連携は、平時のうちに決めておくものです。

2016年1月には特殊鋼メーカーの工場で事故が起き、完成車メーカーはその影響による部品の供給状況などから、2月8日から13日まで国内の完成車組み立てラインを止めました。同じ年の5月にも、部品メーカーの工場の爆発事故の影響で、一部のラインが止まりました。

火災と爆発は、地震や水害と原因が違うだけで、「一社・一工程の停止が完成品側を止める」構造は同じです。自社のBCPは、「自社が止まらないため」だけでなく、「自社が供給網を止めないため」の計画でもあります。

逆方向もある —— 県外の地震で、国内の組み立てラインが止まる(2016年熊本)

2016年の熊本地震では、地震の影響による部品の供給状況などから、完成車メーカーが国内の完成車組み立てラインを段階的に停止しました。自社の建物と従業員が無事でも、部品が届かなければ、ラインは動きません。

南海トラフは、愛知単独ではなく、静岡から九州までの広域同時被災です。県内の仕入先だけでなく、県外・海外の仕入先と委託先の被災まで含めて、「止まる条件」を洗い出す必要があります。

道路と港が止まれば、無傷の建物は「離れ小島」になる

東海豪雨では、浸水を免れた事業所でも、道路の水没で従業員が出勤できず、操業を中止しました。

南海トラフの想定では、名古屋港、衣浦港、三河港の機能支障が重なります。県の港湾BCPは、衣浦港と三河港について「発災後2か月以内に物流回復率80%以上」を目標としています。裏返せば、2か月間は通常の物流が戻らない前提を、港湾側自身が置いているということです。輸出入や港湾経由の貨物を扱う企業は、港の復旧目標と自社の停止許容日数の差を、平時に測っておく必要があります。

御社の在庫は、何日分ですか。港の目標は、2か月です。

二つの問いかけ

製造品出荷額・全国1位の県で、BCP策定率は全国並み

帝国データバンクの東海4県調査(2026年5月)で、愛知県の策定率は22.2%。全国の21.4%とほぼ同じ水準です。東海4県で並べると、静岡29.3%、岐阜23.2%、愛知22.2%、三重15.8%。製造品出荷額で全国1位の愛知は、東海の中で3番目にとどまります。全国では、大企業の39.9%に対し、中小企業は18.3%です。

供給網の裾野ほど、計画の整備が遅れる。愛知の産業構造——輸送機械が出荷額の53.1%(2020年)、その下に部品、金型、治具、物流、保全の連鎖——に、この規模差を重ねてください。完成車側は、止まらない準備を進めています。問われているのは、連鎖の途中にいる中小の側です。

国の事業継続力強化計画(ジギョケイ)の愛知県内の累計認定は、2026年8月末時点で7,900件を超え、うち連携型が130件を超えています。

策定していない理由は、全国調査(2026年)で「スキル・ノウハウがない」「人材を確保できない」「時間を確保できない」の3点に集中しています。帝国データバンクの愛知県調査(2021年)でも同じ構造で、スキル41.1%、人材31.1%でした。

最初の一歩として、BCP-AIで初版を作るところから始められます。

「書類作りで終わってしまう」—— 愛知の企業自身が、そう答えている

帝国データバンクの愛知県調査(2021年)で、BCPを策定しない理由として「書類作りで終わってしまい、実践的に使える計画にすることが難しい」26.6%、「自社のみで策定しても効果が期待できない」26.6%が上位に並びました。愛知の企業は、「計画が紙で終わる」ことと「一社だけでは足りない」ことを、すでに見抜いています。

その二つへの答えは、実は同じ方向にあります。BCPを「自社の被害対応マニュアル」から、「取引先・港・道路まで含めた停止連鎖の確認表」に作り替えること。上の実話は、まさに「自社のみのBCP」では守れなかったケースです。

その計画に、仕入先上位20社の住所は載っていますか。使っている港の復旧目標(2か月)と、自社在庫の日数は、照合しましたか。

あいちBCPモデルには工業団地向けの団地版もあり、工業団地や協力企業と共同で見直す土台が、県にあります。

帝国データバンクの調査は回答企業群の値であり、県内全事業所の推計ではありません。

2026年の東海4県調査と2021年の愛知県調査は、調査年と母集団が異なります。増減として読まないでください。

愛知には、業種別の「ひな形」と、伴走してくれる講座がある

2026年9月8日の大雨で影響を受けた事業者の方へ。愛知県は県内約100か所に「愛知県中小・小規模企業総合相談窓口」を設け、資金繰り支援として「経済環境適応資金 災害対応資金」を実施しています。名古屋市は特別相談窓口を設け、「経営安定資金(災害復旧資金)」を実施しています。詳しくは愛知県と名古屋市の案内をご確認ください。

あいちBCPモデル。初めて作る中小企業向けのひな形です。全業種統一の様式に、7業種(建設業、製造業、運輸業、卸売業、小売業、飲食店、サービス業)に対応した記入例、新型コロナウイルス感染症対策版、そして工業団地向けの団地版まで揃っています。空欄記入式で、一通りのBCPが作れる構成です。

県のBCP策定支援事業。普及啓発セミナー、ワークショップ形式の策定講座、講座受講後の専門家による個別の伴走支援を実施しています。

資金面。事業継続力強化計画の認定を受けた企業向けの、県の融資制度があります。認定そのものにも、税制措置、金融支援、補助金審査上の加点のメリットがあります。

市町村の網。県は、2024年8月の南海トラフ地震臨時情報を受けて、県内各市町村のBCP策定支援施策の一覧を公表しています。身近な市町村、商工会議所、商工会にも相談先があります。

港湾との照合。名古屋港、衣浦港、三河港には港湾BCPが整備されています。輸出入企業は、自社のBCPと港の復旧構想を照合する参照先として使えます。

BCP-AIで作った初版を持って、商工会議所・商工会や県の策定講座に相談することもできます。

事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。

AIで生成したイメージ画像。治具の載った作業台と部品の棚が並ぶ作業場。
AIで生成したイメージ画像です(実在の風景ではありません)。

取引先に「事業継続の体制は?」と聞かれる前に。

BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。

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