2019年10月13日、千曲川。北陸新幹線の3分の1が、一晩で水に沈んだ。
長野県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2019年10月13日の未明、令和元年東日本台風の大雨で、千曲川の堤防が約70メートルにわたって決壊しました。長野市の浸水区域は1,541ヘクタール。被害を受けた住家は4,000棟を超えました。
川の近くにあった車両基地は、最大で約4.3メートルまで水に沈みました。留置されていた車両の多くが、のちに廃車になっています。北陸新幹線用車両の、およそ3分の1でした。長野と北陸を結ぶ新幹線は約2週間止まり、その後も長くダイヤ削減が続きました。
この車両基地には、「水害のおそれがあるときは車両を高い場所へ退避させる」という考え方がありました。しかし、それは手順書になっていませんでした。誰が、どの情報で、何時間前に動くのか。それが手順書になったのは、災害の翌年でした。
あなたの会社にも「いざとなったら、ああするつもり」がいくつもあるはずです。設備を上げる。車両を移す。取引先に連絡する。それは、書かれていますか。誰が、どの警報で、何時間前に動くと決まっていますか。
頭の中の備えと、書かれた計画の差を、長野はもう知っています。
長野のリスクは「津波がない」ではなく「5経路ある」
内陸県であることは、水害が軽いことを意味しません。令和元年東日本台風が、それを証明しました。長野で事業が止まる経路は、5つあります。
経路1: 千曲川の洪水・内水 —— 実績のある災害
堤防が決壊した穂保地先のほか、篠ノ井、松代、若穂でも浸水が起きました。被害額は県全体で2,766億7,400万円にのぼります(2020年9月18日時点)。
市内では医療機関と薬局あわせて14施設が被災し、1階が水没した医療機関もありました。地域鉄道では千曲川に架かる橋梁が崩落し、復旧に長い時間がかかりました。
自社で確認すること: 事業所、倉庫、従業員の自宅、配送経路の浸水深。そこに、設備・受変電設備・在庫・車両の高さを重ねたことがありますか。
経路2: 活断層 —— 「発生可能性が高いグループ」が複数走る県
長野県は、国が評価する主要活断層のうち最も高い区分(Sランク)の活動区間が県内に5つある、全国でも特異な県です。
糸魚川-静岡構造線断層帯の中北部区間は、明科から諏訪湖南方までを指します。松本盆地東縁断層、牛伏寺断層、岡谷断層、諏訪湖南岸断層群で構成され、マグニチュード7.6程度・最大震度7が想定されています。断層の近くでは、最大で約9メートルの左横ずれが推定されています。境峠・神谷断層帯の主部も、マグニチュード7.6程度。内陸直下型としては最大級の想定規模で、国の評価では「我が国の主な活断層の中では高いグループ」とされています(地震調査研究推進本部・長期評価)。
2026年4月18日には、長野県北部でマグニチュード5.1・最大震度5強の地震があり、住家の一部破損が生じました。糸魚川-静岡構造線断層帯 北部区間の近くで、揺れは同じ日に2度ありました。
県内の主要活断層帯(国の長期評価)
地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。
- 糸魚川-静岡構造線断層帯 北部(小谷-明科)区間(マグニチュード7.7程度)
- 糸魚川-静岡構造線断層帯 中北部(明科-諏訪湖南方)区間(同7.6程度)
- 糸魚川-静岡構造線断層帯 中南部(諏訪湖北方-下蔦木)区間(同7.4程度)
- 木曽山脈西縁断層帯 主部(南部)(同6.3程度)
- 境峠・神谷断層帯 主部(同7.6程度)
この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。
断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。同じ表に載る長岡平野西縁断層帯・十日町断層帯 西部・高田平野東縁断層帯は新潟県、富士川河口断層帯 ケースa・ケースbは静岡県・山梨県、高山・大原断層帯 国府断層帯・阿寺断層帯 主部(北部)は岐阜県に位置するため除いています。出典: 地震調査研究推進本部「長野県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3
これは松本だけの話ではありません。松本、塩尻、安曇野、岡谷、諏訪、茅野に集まる取引先、道路、物流、通勤が、同時に止まる前提で読んでください。長野は東日本と西日本を結ぶ交通と物流の結節点です。ここで糸静線が動けば、影響は県内にとどまりません。
自社で確認すること: 事業所、重要な配管、電気の引込線が、活断層図とどう重なるか。地図の上で、個別に見たことがありますか。
経路3: 山間部の土砂災害と道路の寸断
谷筋と急傾斜地が広く、橋梁や道路の被害で「人・物・修理業者・顧客が届かない」孤立が生じます。豪雨による山間集落の孤立は、県内で複数の前例があります。
自社で確認すること: 主要な仕入れ、配送、通勤の代替経路。そして、数日分の水・燃料・在庫。
経路4: 火山噴火と降灰
浅間山、焼岳、乗鞍岳、御嶽山などの常時観測火山があります。噴火は発災地点だけの問題ではありません。降灰の方向、交通規制、観光の予約、農産物、屋外設備に効きます。2014年の御嶽山噴火は、観光・交通・地域需要への制約が同時に来た実例です。
自社で確認すること: 警戒レベルと風向きによって、屋外作業・出勤・予約・設備の清掃をどう切り替えるか。
経路5: 豪雪と凍結
雪は、発災「日」ではなく操業「条件」の変化として来ます。出勤、除雪、配送、燃料、来客。数日単位で考えるものです。
自社で確認すること: 休業・在宅勤務・配送停止の判断基準は、降り始める前に決まっていますか。
会社が無傷でも、事業は止まる
製造業は、事業所数・従業者数とも県内で最大の産業です。精密・電子部品・機械の供給網は、「自社の無事」だけでは動きません。
物流と交通が止まる
2019年、新幹線は約2週間の運休と、その後の長期のダイヤ削減を余儀なくされました。在来線でも路盤の流出が起きています。道路と鉄道が止まれば、浸水しなかった工場の部材も、製品も、人も止まります。
取引先が止まる
精密・電子部品は、部品、品質承認、顧客の生産計画。このどれか一つが止まれば、自社の操業に波及します。首都圏や中京圏の取引先が被災しても、同じことが起きます。
従業員が来られない
山間の道路が寸断され、あるいは豪雪で、従業員が出勤できません。「出勤を求めない」という判断を事前に決めていない会社は、当日それを決められません。
需要が消える
火山の警戒や災害の報道は、被災していない観光・宿泊・飲食の予約を消します。復旧が長引けば、地域の需要そのものが下がります。
BCPの主語は「建物」ではなく「事業」です。建物が無事な会社ほど、止まった理由を説明できません。
二つの読者へ
まだ策定していない会社へ —— 足りないのは、やる気ではない
長野県のBCP策定率は20.6%です(2026年5月・県内497社を対象に248社が回答)。全国平均の21.4%をわずかに下回ります。この数値は回答企業群の値であり、県内全事業所の推計ではありません。
ただし、長野は意識が低い県ではありません。策定の意向がある企業は55.3%で、全国の50.5%を上回っています。
やる気はある。足りないのは、時間と人材と、書き方です。 TDBの全国調査でも、策定していない理由の上位は「スキル・ノウハウがない」42.2%、「人材を確保できない」33.5%、「時間を確保できない」28.1%でした。
「いざとなったら」を紙にする作業を、ゼロから独学でやる必要はありません。
計画がある会社へ —— その計画は、あの夜に開けましたか
冒頭の話を、もう一度お読みください。考え方があっても、当日の判断基準・担当・タイミングまで落ちていない計画は、実行されません。
洪水、土砂、雪、火山、取引先の停止。これらは別々のシナリオです。一つの想定だけで書いた計画は、千曲川の夜には開けません。
訓練と見直し、複数のハザードへの展開は、初版を作ったあとの課題です(BCP-AIの訓練・見直しの機能は有料プランです)。
長野の支援は、10年を超える協定の蓄積がある
長野県BCP策定支援プロジェクトは、2013年4月に始まりました。県と県内の経済4団体(長野県経営者協会、長野県中小企業団体中央会、長野県商工会議所連合会、長野県商工会連合会)、そして東京海上日動火災保険による6者協定です。支援の実績は第1期(2013〜2017年度)が178件、第2期(2018〜2022年度)が151件。第3期(2023〜2027年度)は150件を目標としています。
県はBCP策定支援セミナー等を継続的に開催しています。最新の開催情報は、長野県産業労働部産業政策課(プロジェクト事務局)と、各地の商工会議所・商工会で案内されています。長野市は、ストーリー型の教材「おらが産業」シリーズ(大雪・地震・サイバー・水害・猛暑)を公開しています。
事業継続力強化計画(ジギョケイ)は、国の認定制度です。県内の累計認定は1,800件を超えています(令和8年7月末時点)。認定を受けると、税制措置、金融支援、補助金審査上の加点などがあります。管轄は関東経済産業局です。
公的な支援は、入口として優秀です。ただし集合形式の支援では、自社の住所・設備・取引先に落とし込む作業が自社に残ります。BCP-AIは、その距離を埋める道具です。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
「いざとなったら」を、今日、紙にする。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。
手順書は、災害の後にも作れます。前に作った会社だけが、止まりません。