1時間に187ミリ。1982年7月23日、長崎に降ったのは、国内の観測史上最大の雨だった。
長崎県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
その夏の長崎は、記録的な空梅雨でした。気象台は7月の上旬、2度にわたって少雨情報を出しています。
7月23日の夕刻、状況は一変しました。長与町で1時間に187ミリ。降り始めからの総雨量は572ミリ。県内では4,457箇所で土砂災害が同時に発生し、国道34号が寸断されました。市街地の浸水と、郊外の斜面崩壊が、同じ夜に重なりました。
あの夏から、2021年8月の大雨では、県内各地でがけ崩れが相次ぎました。本土でも離島でも被害が出ました。
長崎の事業停止は、過去の話ではありません。いまも続いている話です。
それでも、長崎県内でBCPを持つ企業は15.5%にとどまります。理由は危機感の欠如ではありません。2026年8月に公表された調査は、「スキル」「人材」「時間」という基本的な経営資源の不足が策定を阻んでいると指摘しました。
足りないのは覚悟ではなく、道具です。
長崎のリスクは「点」ではなく「線」
ハザードを並べるのではなく、どの線(経路)が切れるとあなたの事業が止まるかで見てください。
1. 豪雨×斜面 —— 市街地と山崩れが同時に来る
1982年7月23日の長崎大水害では、長与町で1時間に187ミリ、総雨量572ミリを記録しました。県内の土砂災害は4,457箇所に達し、国道34号が寸断されています。都市の水害(浸水・車両・決済の停止)と、郊外の斜面崩壊(道路・通勤・配送の停止)が、同じ夜に起きました。
直近でも反復しています。2021年8月の大雨では長崎市・佐世保市・西海市などに大雨特別警報が出され、県内各地でがけ崩れが相次ぎました。本土と離島で同時多発しました。
自社で確認すること: 建物が無事でも、従業員が出勤できない、配送車が入れない、取引先を訪問できない。この3つで売上は止まります。
2. 火山 —— 「復旧を待つ」が通用しない停止
雲仙普賢岳の噴火(1990年から1995年)は、198年ぶりの噴火で4年3か月続きました。この災害では、44人の方が亡くなり、または行方不明となりました。心より哀悼の意を表します。
建物の被害は2,511棟、被害額は約2,300億円(うち商工被害は約1,480億円)。国道57号と251号は火砕流と土石流で通行止めとなり、物理的に分断されました。最大で約1.1万人が避難し、営農や営業に就けない状態が数年の単位で続いています。
現在も警戒区域は継続しています(島原市・雲仙市・南島原市。期限は1年ごとに延長されています)。
「数日で戻れる」前提の計画は、長崎の火山リスクには通用しません。 長期化を前提にした代替——拠点、販路、資金繰り——が要ります。
自社で確認すること: 立ち入れない期間が数か月から数年に及んだ場合の、拠点・販路・資金繰り。
3. 地震・津波 —— 「長崎は地震が少ない」の内側にある断層
県の地震等防災アセスメントは、雲仙地溝北縁断層帯、南縁の連動、大村-諫早北西付近断層帯による地震で、雲仙市・諫早市・島原市・南島原市・長崎市・大村市などが震度6弱以上、南縁の連動では一部で震度7が現れると想定しています。国の長期評価では、雲仙断層群の南西部(北部)が、今後30年以内の発生可能性が主な活断層の中では高いグループ(Sランク)にあります。
2016年の熊本地震では南島原市で震度5強を観測し、土砂災害警戒情報の基準を通常の8割に引き下げる暫定運用が約7か月続きました。隣県の地震が、長崎の防災運用を変えた実例です。
津波については、県が全沿岸と離島を含む最大クラスの浸水想定(第2版)を公表しています。
県内の主要活断層帯(国の長期評価)
地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。
- 雲仙断層群 南西部(北部)(マグニチュード7.3程度。海域・沿岸に分布)
この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。
断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。同じ表に載る日奈久断層帯 日奈久区間・八代海区間は熊本県に位置するため除いています。出典: 地震調査研究推進本部「長崎県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3
自社で確認すること: 事業所・倉庫・漁港・フェリーターミナルを、住所単位で浸水想定と重ねる。
4. 離島×港湾×船便 —— 県の生命線は海の上にある
台風や低気圧が近づくたび、長崎と離島を結ぶ船は止まります。対馬・壱岐・五島の事業者にとって、欠航は「交通の乱れ」ではありません。仕入・出荷・来客・修理人員の全停止です。
県は長崎港・福江港・郷ノ浦港などの港湾BCPを公表しています。港の側は計画を持っています。持っていないのは、港を使う側の企業です。
自社で確認すること: 島内の在庫・燃料・水・保冷は「何日」持つか。代替の港と便、受入、島内配送を決めてあるか。
「自社は無傷」でも、長崎の事業は止まる
焼けなかった事業所も、立ち入れなかった
雲仙の噴火では、焼けなかった事業所も「警戒区域で立ち入れない」「客が来ない」「国道57号と251号が閉じた」で停止しました。被害は直接の焼失にとどまらず、立ち入り制限と客の減少を通じて島原半島全体に広がったとされています。
商品そのものが土砂に埋まった
2021年8月、雲仙温泉では裏山の崩落で観光名所の雲仙地獄の一部が土砂に埋まり、国道57号まで土砂が流出しました。国土交通省などが夜間に通行止めのうえ土砂を撤去しました。
宿泊施設が無事でも、「景観と道路」という商品そのものが止まりました。
建物も在庫も無傷のまま、その日を失った
台風で船が止まった日、島の小売、飲食、建設は、建物も在庫も無傷のまま、その日の物流と来客を失います。
台風は毎年来ます。つまりこれは「リスク」ではなく「年中行事」です。
3つに共通するのは、止まった原因が自社の敷地の外にあることです。ハザードマップに自社を重ねるだけでは足りません。斜面・道路・港・船便・取引先をつないだ「到達できるかの地図」を持つ企業だけが、再開の順序を即断できます。
二つの読者へ
まだ作っていない企業へ
TDBの長崎県調査(2026年8月20日公表・調査は5月18〜31日・県内270社中103社が回答)によると、策定率は15.5%(前年比+2.0ポイント)、未策定は44.7%でした。策定の意向がある企業は44.6%です。
これは回答した103社の値であり、県内全企業の推計ではありません。
同じ調査は、未策定の背景を「スキル・人材・時間といった基本的な経営資源の不足」という構造的な課題だと明記しています。
つまり「作らないあなたが悪い」のではありません。「従来のBCP策定が、中小企業の資源量に合っていない」のです。
スキル(専門知識)はAIが補えます。人材(担当者)は一人で足ります。時間は、初版を短時間で作れば生まれます。
県の業種別・災害別の簡易シートは、最低限の出発点として有効です。ただし長崎で実務に耐えるには、船便・荷役・島内配送・斜面・警戒区域の長期化を織り込む必要があります。そこを対話で埋めるのが、AIの領分です。
作ったが動かない企業へ
4つ、確かめてみてください。
- その計画に、船便の欠航は書いてありますか。
- 警戒区域が1年続いた場合の資金繰りは。
- 島内の燃料と保冷は、何日分ありますか。
- 豪雨の夜、配送を止める基準は誰が決めますか。
国の事業継続力強化計画の県内累計認定は960件を超えています(令和8年7月末時点)。認定済みの企業には、「単独の計画から連携型へ」「年1回の見直し」という次の一歩があります。
長崎の事業者が使える支援先
長崎県「中小企業者等向け事業継続計画(BCP)」では、業種別(卸小売・建設・製造・飲食・その他)と災害別(感染症・大地震・風水害)の簡易策定シートが提供されています。
長崎県「津波浸水想定(第2版)」で、沿岸と離島を住所単位で確認できます。
長崎県「港湾BCP」(長崎港・福江港・郷ノ浦港ほか)は、自社の物流経路と重ねる素材になります。
長崎県「火山防災」(雲仙岳)と島原市の警戒区域情報も確認してください。
事業継続力強化計画は国の認定制度で、認定により金融・税制・補助金審査上の加点があります。
長崎県よろず支援拠点と、県内各地の商工会議所・商工会が、相談と策定支援の窓口です。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
まず、自社の「切れる線」から始める。
進め方は3つです。まず自社の住所で「切れる線」を確認する(津波・土砂・警戒区域・船便)。次に、初版のBCPを作る。そして県のシートや事業継続力強化計画の申請へつなぐ。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。
船が止まる日を、計画に書いてある会社へ。