地震から2か月。ガスはまだ止まっていた。外は、雪だった。
新潟県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2004年10月23日、午後5時56分。マグニチュード6.8、最大震度7。走行中の上越新幹線「とき325号」が脱線しました。営業運転中の新幹線の脱線は、1964年の開業以来はじめてのことでした。乗客151人にけが人はいませんでした。
全壊3,175棟。避難者は約10万3千人。停電した約30万戸は、比較的早く復旧が進みました。しかし約5万6千戸のガスの復旧にはおおむね2か月かかり、約13万戸の断水の解消にも時間がかかりました。
その復旧の途中で、中越は雪の季節に入りました。仮設住宅の暮らしにも、工場の再開にも、雪が重なりました。
建物を直せば終わり、ではありませんでした。新潟の災害は、次の季節と重なって来ます。地震のあとの雪。雪のなかの停電。あなたの会社の計画は、「重なった場合」を想定していますか。
新潟県のリスク
地震 —— 県内最大の想定は長岡平野西縁断層帯
県の2022年の地震被害想定は、内陸6、海域3の計9つの地震を、3つの時刻と2つの風速で評価しています。最大は長岡平野西縁断層帯の地震で、全壊171,244棟、死者7,920人、避難者471,386人と想定されています。条件付きの推計であり、確定値ではありません。
長岡と中越だけの話ではありません。新潟都市圏、県央の製造・物流・通勤圏まで、同じ地図の上で影響を受けます。
一方で、打つ手はあります。県の試算では、耐震化を100%実施した条件で、全壊は約86%減ります。
国の長期評価は毎年更新されます。「昨年の防災計画」が今年も有効とは限りません。
上越地域を走る高田平野東縁断層帯は、国の長期評価でM7.2程度とされています。県の被害想定は、同じ上越地域の高田平野西縁断層帯の地震を、上越市への影響が大きい内陸地震として想定しています。上越は特別豪雪地帯の中心圏でもあります。豪雪期の地震は、雪崩、屋根雪による倒壊の増加、避難路と輸送路の同時寸断を意味します。
県内の主要活断層帯(国の長期評価)
地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。
- 櫛形山脈断層帯(マグニチュード6.8程度)
- 長岡平野西縁断層帯(同8.0程度)
- 十日町断層帯 西部(同7.4程度)
- 高田平野東縁断層帯(同7.2程度)
この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。
断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。同じ表に載る糸魚川-静岡構造線断層帯 北部(小谷-明科)区間・中北部(明科-諏訪湖南方)区間は長野県、糸魚川-静岡構造線断層帯 中南部(諏訪湖北方-下蔦木)区間は長野県・山梨県に位置するため除いています。出典: 地震調査研究推進本部「新潟県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3
津波・港湾 —— 日本海側の最大クラス想定
県の浸水想定は、避難のための悪条件下の想定であり、着色のない区域の安全を保証するものではありません。沿岸の企業は、「人の避難」と「港・倉庫・冷蔵・船便の再開」を分けて設計してください。
豪雪 —— 全域が豪雪地帯、18市町村が特別豪雪地帯
短期集中の降雪、地吹雪、車両の連鎖滞留、除雪オペレーターの不足、送電線と通信線の障害。県の雪対策基本計画は、これらを事業継続上の課題として明記しています。
2020年12月15日から16日にかけて、湯沢の24時間降雪量は113cmを記録し、観測史上最大となりました。雪は、記録を更新しに来ます。
2025年2月の大雪でも、県内で鉄道の運休など交通障害が続き、除雪作業中の事故による負傷が相次ぎました。
柏崎・刈羽を「発電所だけの問題」にしない
原子力防災の防護措置——避難と一時移転、屋内退避、安定ヨウ素剤、避難退域時検査、飲食物の摂取制限——は、どれも通勤、配送、顧客の来訪、在庫、取引先への連絡を変えます。
PAZ・UPZの関係市町村は、柏崎市と刈羽村だけではありません。長岡市、小千谷市、十日町市、上越市、燕市、見附市、出雲崎町などに及びます。
県は複合災害を想定し、6方向の避難路で計88か所(道路改良6、橋梁耐震15、法面対策61、消融雪など6)を整備の対象としています。「避難路がある」ではなく、地震、雪、土砂、渋滞が重なった条件で使えるかを確認してください。
無傷でも止まる —— 新潟の実話
関越道、2,100台、2日以上 —— 2020年12月
2020年12月16日の夜、塩沢石打IC付近で大型車がスタックしました。後続が連鎖的に滞留し、最大約2,100台に達しました。上り線の車両がすべて退出するまで、2日以上(12月16日夕方から18日夜まで)かかりました。並行する国道17号も閉鎖されました。
巻き込まれた県内の運送会社が公開した体験談では、従業員が29時間後と41時間後に救出されています。
この間、県内で建物は1棟も壊れていません。それでも、納品は止まり、ドライバーは拘束され、荷主への説明に追われました。
柏崎・国道8号、長時間の立ち往生 —— 2022年12月
2022年12月、柏崎市、長岡市、見附市の国道で相次いで立ち往生が起きました。柏崎の国道8号では、解消まで長時間かかりました。同じ月、村上市では着雪と倒木による長時間の停電も発生しました。
雪は毎年、少しずつ場所を変えて、同じ止め方をします。
中越地震のライフライン復旧時差 —— 2004年
電気、水道、ガスの順に復旧が遅れ、ガスはおおむね2か月かかりました。同じ「復旧」でも、機能ごとに時差があります。工場が無傷でも、ガスが戻るまで蒸気は使えません。高速道路と新幹線の寸断で、県外顧客への納品と原料の入荷が、同時に細りました。
新潟のBCPが答えるべき問いは、「建物が壊れたらどうするか」だけではありません。無傷のまま、道路と港と電気と人が止まったら、何日持つか。 地震、津波、雪、避難措置。止まり方は違っても、確認する項目は同じです。人、道路、電気、水、通信、港、取引先。
二つの読者へ
まだ策定していない経営者へ
新潟の会社は、災害を知らないのではありません。毎年、雪に対応しています。除雪の段取りも、休むかどうかの判断も、体で覚えている。だからこそ「うちは慣れている」となり、計画は紙になりません。
県内企業のBCP策定率は20.7%です(帝国データバンク新潟県版・2026年)。回答企業の値であり、県内全企業の推計ではありません。震度7を経験した県で、です。
策定していない理由の上位は「スキル・ノウハウがない」42.7%、「人材を確保できない」30.2%、「時間を確保できない」29.2%です。意識ではなく、資源の問題です。最初の一歩として、BCP-AIで初版を作るところから始められます。
体で覚えている雪の対応を紙にするだけで、BCPの半分はできています。大雪警報で誰が出勤を止めるか。配送をいつ前倒しするか。燃料と冷凍の能力は何日分か。冬期運用表から始めてください。
国の事業継続力強化計画の県内累計認定は1,300件を超えています(令和8年7月末時点)。「最初の一枚」として、最短の入口です。
計画はあるが、動いていない会社へ
中越地震から22年。当時作った計画は、いまの拠点、取引先、人員で動きますか。
点検の問いは三つです。計画に「雪の章」はあるか。地震の章しかない計画は、新潟では半分しかカバーしていません。「復旧時差」を織り込んでいるか。「電気が戻る=再開」になっていないか。ガスは2か月かかりました。「一本足の物流」になっていないか。関越道が2日以上止まった間、代わりに使える経路、運送会社、倉庫を決めてありますか。
年1回の訓練は、地震による道路とライフラインの停止、豪雪による出勤と物流の停止、港湾と取引先の停止のうち、どれか一つでかまいません。
地元の支援資源
新潟県「BCP策定塾」。全4回の連続講座で、コーディネーターの伴走のもと、自社専用のBCPのひな型を実際に作成し、運用まで学ぶ実践型です。独学でなくてよい、ということです。
支援者向けのBCP策定セミナー。県は、金融機関、商工会・商工会議所の職員、経営指導員向けの研修も行っています。顧問税理士や取引金融機関に相談する、という入口もあります。
新潟県商工会連合会も、県内事業者向けのセミナーを開催しています。
事業継続力強化計画(ジギョケイ)。県内の累計認定は1,300件超。補助金審査上の加点、税制措置があります。連携型(連携事業継続力強化計画)は、県内でも複数のグループが認定を受けています。一社で抱えない選択肢です。
市町村の策定費補助。長岡市など、BCPの策定費用を補助する制度を持つ市町村があります。(公募の時期と条件は年度により異なります)
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
その計画に、雪の章はありますか。
大雪警報が出た朝、出勤を止める基準は、誰の頭の中にありますか。電気が戻った日と、ガスが戻った日。あなたの工場は、どちらで再開できますか。
新潟でまず用意したいのは、分厚い文書ではなく、冬期運用表1枚と、連絡の一本化です。毎冬使うものだから、形だけになりません。国の断層評価が動いたら、計画も一緒に見直します。最初の一歩として、BCP-AIで初版を作るところから始められます。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。