「晴れの国」が戦後最悪の水害に襲われた2018年7月。岡山の備えの数字は、コロナ禍以降で最低になった。
岡山県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2018年7月6日の夜、岡山県内24市町村に大雨特別警報が出ました。7日の朝までに小田川と支流の高馬川・末政川などの堤防が決壊し、倉敷市真備町では地区の約4分の1が水没。浸水の深さは最大で5メートルを超えました。住宅の全壊は4,841棟、半壊は3,129棟にのぼり、県内の風水害として戦後最悪となりました。
岡山は平成元年から「晴れの国」を名乗っています。降水量1ミリ未満の日は276.7日で全国1位。それは統計の事実であり、この土地の恵みでもあります。「岡山は災害が少ない」。県の内外で長く共有されてきたその認識のなかに、2018年の水は、突然やってきました。
あれから。2026年、全国のBCP策定率は21.4%です。同じ年、岡山の「策定意向あり」はコロナ禍以降で最低に落ちています。
災害は風化します。晴れの日が続くほど、早く。「うちは浸からなかった」。2018年に無事だった会社ほど、その言葉のまま2026年を迎えました。
BCPは「また真備が起きる」ためのものではありません。道路が止まり、港が止まり、取引先が浸かったとき、自社の何が止まるかをあらかじめ知っておくためのものです。
岡山県固有のリスク
カード1: 南海トラフ地震 —— 県が2026年2月に引き上げた数字
県は2026年に被害想定を見直しました(前回は2013年)。
この想定では、最悪のケースで3,778人の方が亡くなるとされています(前回2013年想定の3,111人を上回ります)。災害関連死も初めて試算され、624人から1,247人とされました。
最大震度6強を想定するのは岡山市南区と倉敷市。県の人口と産業が集中する県南の臨海部です。津波は岡山市・倉敷市など沿岸部に到達し、堤防が地震で破壊された場合の浸水面積は最大で約1万7,055ヘクタール。低地部の液状化が、建物・設備・埠頭・道路を同時に傷めます。
建物が無事でも、液状化した道路・岸壁・用水・電力が先に止まります。 「揺れの被害」ではなく「地盤とインフラの被害」を想定してください。
自社で確認すること: 自社の住所での震度と液状化。そして、道路と岸壁が使えない期間に何が止まるか。
カード2: 豪雨・洪水 —— 2018年が証明した「晴れの国の水害」
2018年7月の豪雨で、県内の国・県管理河川の堤防18箇所が決壊しました。7月6日の雨量は県内7地点で観測史上最大です。
真備町では高梁川の支流である小田川と、そのまた支流(高馬川・末政川・真谷川)が決壊しました。ハザードマップは事前に5メートルを超える浸水を予測しており、実際の浸水域はほぼ想定どおりでした。 「知らなかった」のではなく「自分事にならなかった」災害です。
県の被害額は、公共土木施設が約302億円、農林水産関係が約266億円にのぼります。
自社で確認すること: 浸水深だけでなく「何時間で水が来るか」。車両・在庫・サーバーを上へ逃がす基準。浸水の前に操業を止める判断。高梁川・旭川・吉井川の三大河川と、内水の両方を見てください。
カード3: 臨海部・港湾・ユーティリティ —— 水島に集中する県経済の心臓
水島臨海工業地帯(化学・鉄鋼・自動車・石油)と、水島港・宇野港・岡山港。県はこの3港の港湾BCPを整備しています。県自身が「港が止まると産業と生活が止まる」と認めているということです。
地震、液状化、高潮で、電力・工業用水・岸壁・荷役・危険物設備が同時に影響を受けます。コンビナートは、1社の停止が配管・原料・ユーティリティを通じて隣接企業へ連鎖します。
自社が水島になくても、原材料・燃料・樹脂・鋼材の川上は水島にあります。港湾BCPが港を再開しても、荷役・保管・受入・検収・顧客側の詰まりは、各社のBCPでしか解けません。
自社で確認すること: 原材料の川上がどこにあるか。港が再開してから、自社に届くまでに何が挟まるか。
カード4: 広域交通・物流の分断 —— 「通り道の県」の宿命
岡山は山陽道・国道2号・山陽新幹線・JR山陽線・瀬戸大橋が交差する、西日本物流の結節点です。2018年の豪雨では山陽道の通行止めとJR貨物山陽線の長期不通が発生し、県内が復旧しても西からの部材と東への製品が動かない状態が続きました。
県北は中国山地の土砂災害と雪による道路の分断、県南は河川と内水による幹線の寸断がリスクになります。県北部には、県の被害想定が対象としている長者ヶ原-芳井断層などの断層型地震のリスクもあり、真庭・新見・津山圏では孤立集落型の被害想定が示されています。
自社で確認すること: 「別の道路」だけでは代替になりません。港湾・鉄道・道路の稼働、荷役、受入、冷蔵と品質、顧客側の検収、入金まで一続きで。
自社が無傷でも、事業は止まる
2018年7月、浸からなかった会社も止まりました。岡山のBCPの出発点は「自社の被災」ではなく「停止の連鎖」です。
| 実際に起きたこと | 事業への読み替え |
|---|---|
| 小田川などの堤防決壊・広域の浸水 | 取引先や外注先が浸水し、部材・加工・納品が止まった。顧客側(被災地域の需要)が長期間消えた |
| 山陽道の通行止め・JR貨物山陽線の不通 | 県外からの原材料と県外への製品出荷が同時に停止。納期遅延の連絡、検収の遅れ、入金の遅れへ連鎖した |
| 浄水場・水源地の冠水による断水 | 洗浄・冷却・衛生に水を使う工程、飲食・宿泊・医療福祉が操業不能に。従業員の生活面の負荷が出勤率を下げた |
| 道路の損壊・公共交通の乱れ | 従業員が出勤できない、帰れない。復旧資材・修理業者・配送便が到達しない |
| 浸水が県内の工場設備に達し、夜間に爆発が発生。周辺住民の避難につながった | 自社の被災は、自社だけの問題で終わらない。 危険物・薬品・高温設備の「安全な止め方」は、近隣と地域への責任でもある |
岡山の停止連鎖の型は、浸水・道路・用水・港湾・取引先・地域需要が同時に止まることです。
2018年に直接浸からなかった企業の売上減と納期遅延こそが、「うちは大丈夫」の反例です。
地図に重ねるべきものは5つあります。河川と内水のハザード、事業所・倉庫・車両、従業員の自宅、仕入先と顧客、そして配送と通勤の経路。
岡山の数字 —— 全国の策定率が21.4%だった年に
まだ策定していない会社へ
TDBの2026年の調査(帝国データバンク 岡山県版・2026年7月14日公表・調査は2026年5月18〜31日)で、岡山県の「策定意向あり」は41.9%でした。前年から8.1ポイント下がり、コロナ禍(2020年5月調査)以降で最低です。「策定していない」は48.6%で前年から6.9ポイント増え、2年ぶりに「意向あり」を逆転しました。
想定するリスクは「自然災害」が59.7%で突出しています。策定しない理由のトップは「スキル・ノウハウがない」41.7%でした。
同じ2026年の調査で、全国の策定率は21.4%、「策定意向あり」は50.5%です。
全国の備えが増えた年に、岡山の備えの意向はコロナ禍以降で最低になりました。2018年7月から2026年まで。数字が示しているのは、災害の風化そのものです。
なお「意向」は「策定済み・策定中・検討中」の合計であり、策定済みの率ではありません。岡山単独の母数は小さく、単年の振れがあります。
岡山県の数値は回答企業148社の割合であり、県内全企業の推計ではありません。
「スキルがない」が理由の1位なら、入口は専門書でなくてかまいません。A3一枚で足ります(次のセクションへ)。
策定済み・認定済みの会社へ
前年の同じ調査(2025年・168社が回答)では「既に策定している」は23.2%でした。
その計画は、2018年型(浸水・道路・取引先・断水の同時停止)と、2026年2月の新しい被害想定(関連死・液状化・堤防破壊の条件)を反映して見直しましたか。
岡山県のBCP認定制度は3年ごとの更新制で、書類と面接の審査があります。「認定を取って終わり」を、制度自体が想定していません。 更新を、訓練と見直しの機会として使ってください。
国の事業継続力強化計画の県内累計認定は1,900件を超えています(令和8年7月末時点)。認定の件数と実効性は、別のものです。
岡山で使える支援資源
| 資源 | 中身 |
|---|---|
| 岡山県版かんたんBCPシート | A3用紙一枚に記入するだけ。地震・風水害・新型感染症・サイバーの4リスクに対応し、製造・建設・卸小売・飲食・宿泊・運輸ほか7業種別のフォーマットと策定の手引きが付いています |
| 岡山県BCP認定制度 | 県内企業のBCPを県が認定します。有効期間3年の更新制で、書類と面接の審査があります。認定されると県のHPでの公表、ロゴの使用、損保・金融機関の支援があります。申請の受付時期は年度により異なります |
| 事業継続力強化計画 | 国の認定制度。税制措置、金融支援、補助金審査上の加点があります |
| 港湾BCP(水島港・宇野港・岡山港) | 県が3港の機能維持と早期復旧の計画を整備しています。自社の計画と接続すべき地域インフラの計画です |
| 平成30年7月豪雨災害検証委員会 | 県公式の検証資料。2018年の事実関係の出典元です |
商工会議所・商工会や、よろず支援拠点にも相談できます。
「スキル・ノウハウがない」が未策定の理由の1位でした。県の答えは、A3一枚です。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
「うちは浸からなかった」と言った、2018年7月から。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。まずは自社の停止連鎖を確認するところから。