あの日、松江は震度5強。建物は、残った。
それでも特急も高速バスも止まり、宿の予約だけが静かに消えた。
島根県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2026年1月6日、島根県東部を震源とするマグニチュード6.4の地震。松江市と安来市で震度5強を観測しました。安来市で一時停電したほかは、工業用水道の送水も止まりませんでした。県が聞き取った大規模な宿泊施設51か所は、すべて営業を継続できる状態でした。
それでも、伯備線と木次線は運転を見合わせ、特急列車と広島・岡山・大阪行きの高速バスは運休し、一畑電車は全線が止まりました。松江城と小泉八雲旧居は、安全確認のため入場停止に。そして複数の宿泊施設で、キャンセルが発生しました。
建物が無事でも、事業は止まる。 島根県の事業継続は、その前提から設計する必要があります。
- 松江市・安来市で震度5強(2026年1月6日/M6.4)
- 島根県のBCP策定意向 40.1%(全国50.5%)
- 事業継続力強化計画 県内認定 290件超(令和8年7月末時点)
島根県固有のリスク
島根県のリスクは「日本海側だから大きな地震とは無縁」ではありません。県の被害想定は、県都・松江の市街地近傍を走る宍道断層をはじめ、複数の地震を対象としています。そして2026年1月、想定より小さい規模の地震でさえ、山陰の交通網を丸一日止めました。
カード1: 地震 —— 県都の近傍に活断層、日本海には津波
島根県地震・津波被害想定調査(平成30年3月)は、宍道断層の地震(M7.1)、宍道湖南方断層(M7.3)、大田市西南方断層(M7.3)、浜田市沿岸断層(M7.3)、弥栄断層帯など、10の地震を想定しています。
宍道断層の地震では、県の想定で最大震度7とされています。地震調査研究推進本部の長期評価によれば、宍道(鹿島)断層が全体でひとつの区間として活動した場合、マグニチュード7.0程度もしくはそれ以上の地震が起こりうるとされます。地震調査研究推進本部の相対評価では、宍道(鹿島)断層と弥栄断層はいずれも最も高い区分(S*ランク)に置かれています(2026年1月1日算定)。過去の実績は、1872年の浜田地震(M7.0〜7.2)、2018年の島根県西部地震(M6.1)、そして2026年1月6日の島根県東部の地震(M6.4)です。
日本海側は太平洋側と比べて津波の心配が小さいと受け取られがちですが、島根県の沿岸は、1964年の新潟地震、1983年の日本海中部地震、1993年の北海道南西沖地震のように、日本海東縁部で起きた大地震の津波で被害を受けたことがあります。県内で揺れが小さくても、津波は到達します。
県内の主要活断層帯(国の長期評価)
地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。
- 宍道(鹿島)断層 ケース2(マグニチュード7.0程度もしくはそれ以上)
- 弥栄断層(同7.7程度)
この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。
断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。出典: 地震調査研究推進本部「島根県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3
カード2: 豪雨・土砂・道路分断 —— 「孤立」は直接被害と同格
山地、河川、沿岸に集落と道路が近接する県土です。局地的な豪雨で、道路、橋梁、斜面が同時に傷みます。
昭和39年(1964年)7月の山陰北陸豪雨では、県内で死者110名、公共土木施設に約80億円の被害が生じました。犠牲者の9割以上は、山崩れやがけ崩れによるものでした。亡くなられた方々に、心より哀悼の意を表します。
昭和58年(1983年)7月の県西部集中豪雨では、公共土木施設関係の被害額が1,088億円余に達しました。このとき県西部は一時的に陸路を絶たれ、被災地への救援活動は海路に頼らざるを得ませんでした。
道路が切れると、通勤、配送、集荷、修理、仕入先訪問、市場への出荷が同時に止まります。工場も店舗も無傷のまま、営業だけが不能になります。
カード3: 雪・暴風雪 —— 冬季の「静かな停止」
山間部と県北部の積雪と吹雪は、人員、物流、燃料の供給を毎年確実に制約する「頻度の高い小災害」です。1月6日の地震の当日も、木次線の出雲横田〜備後落合は、地震とは別に大雪で運休していました。冬季は、複数の要因が重なります。
冬季の燃料、在庫、代替勤務、配送停止の基準を持たない会社は、毎冬、小さく出血し続けます。
カード4: 県都の発電所・港湾・漁港 —— 島根だけの前提条件
このカードは、発電の是非を論じるものではありません。避難計画や交通規制が発動した場合に、自社の従業員、取引先、配送がどう動くかを事前に確認しておくという、松江圏の企業に固有の実務の論点として扱います。
松江市鹿島町には原子力発電所があります。「発電所情報の確認」が初動のチェック項目になるのは、島根の企業の特性です。
水産県の島根では、県が漁港BCPを整備しています。ただし漁港が使えても、燃料、氷、水、電源、冷蔵、荷役、市場、配送のどれか一つが欠ければ、水産・食品は再開できません。
港湾は「施設が無事でも、安全確認が済むまで動かせない」。1月6日の境港(鳥取県境港市と松江市にまたがる港)では、港湾施設に損傷などの被害は確認されなかったものの、荷役が再開されたのは安全確認を経てからでした。
自社が無事でも、事業は止まる
BCPというと「建物が壊れたときの計画」と思われがちです。しかし2026年1月6日に島根の企業が経験したのは、その逆でした。壊れていないのに、止まったのです。
実録: 2026年1月6日、島根で「止まったもの」
島根県が公表した被害状況(3月30日時点・最終報)と、気象庁・各交通事業者の発表に基づく、停止した機能の記録です。
| 領域 | 起きたこと | 企業活動への意味 |
|---|---|---|
| 発災 | 10時18分、M6.4。松江・安来で震度5強。約20分の間に震度5強・5弱・4の地震が続き、緊急地震速報が繰り返し発表された | 平日の就業時間中。全社員の安否確認と避難判断が同時に発生 |
| 鉄道 | 伯備線(新見〜米子)・木次線(宍道〜出雲横田)が運転見合わせ。一畑電車は北松江線・大社線とも運転見合わせ。山陰線の特急列車は運休 | 通勤、出張、来客、鉄道貨物が広域で停止。復旧は夕方以降に順次 |
| バス | 高速バス出雲〜広島、出雲〜岡山、出雲〜大阪が運休。松江〜広島、出雲〜神戸も一部運休 | 県外との人流、商談、出張が丸一日消えた |
| 道路 | 県管理道路で全面通行止2か所、片側交互通行2か所(雲南市大東町の落石、安来市広瀬町の落石・路面クラック、国道432号の路面クラック)。松江自動車道(雲南吉田IC〜三刀屋木次IC)と安来道路(安来IC〜米子西IC)も日中に一時通行止め | トラック輸送と修理業者の到達が、特定ルートで不能に |
| 空港 | 出雲縁結び空港でターミナル2階ロビーの天井ガラス2か所にひび割れ。一部閉鎖・立入禁止(旅客動線に影響なし) | 施設の一部でも「使えない区画」が生じれば、運用は変わる |
| 港湾 | 境港(鳥取県境港市と松江市にまたがる港)は施設被害なし。それでも安全確認の完了まで荷役は停止 | 「無被害でも点検が済むまで動かせない」の典型 |
| 観光 | 足立美術館、安来節演芸館、堀川遊覧船、武家屋敷、小泉八雲記念館、松江歴史館、多久の湯、玉造温泉ゆーゆなどが臨時休館・休業。松江城と小泉八雲旧居は安全確認のため当面入場不可 | 観光地の集客が一斉停止。周辺の飲食、物販にも波及 |
| 宿泊 | 県が定員100人以上の51施設に聞き取り。5施設で物品の破損などはあったが、全施設が営業継続。それでも交通機関の運休などにより複数の施設でキャンセルが発生 | 施設は無傷、営業も可能、それでも売上が消えた |
| 医療 | 安来市内の1病院で建物に亀裂。一般外来、手術、救急車の受入を1月6〜7日中止 | 従業員の受診、産業医対応、事故時の搬送の前提が変わる |
| 水道 | 安来市伯太町草野19戸(翌日昼に復旧)、出雲市斐川町阿宮4戸(翌日未明に復旧)、松江市東出雲町20戸で断水(漏水復旧工事のための計画断水・当日中に復旧) | 局所的でも、その地区に事業所があれば衛生と製造は止まる |
| 電気・工業用水 | 安来市で最大約70戸が停電し、翌日午前中に復旧。工業用水道は漏水3か所を当日中に復旧し、受水30企業31事業所への送水に影響なし | ライフラインは持ちこたえた。それでも事業は止まった |
| 余震 | 1月中に震度1以上を60回観測。気象庁は「1週間程度、最大震度5強に注意」と呼びかけ | 再開と再休業の判断を、余震のもとで繰り返す消耗戦 |
県公表(3月30日時点・最終報)の県内被害は、住家の一部破損216棟(安来市123、松江市74、雲南市10、出雲市9)、非住家の全壊1棟・半壊1棟、事業者の建物被害等35事業者(安来市19、松江市11、奥出雲町2、出雲市2、雲南市1)。県は商工団体などに経営相談窓口を設置しました。観光施設の臨時休業はいずれも営業を再開し、空港ロビーの天井ガラスの補修は3月に、市立病院の手術の再開は2月に及びました。
停止連鎖の3類型
水産・食品型 —— 港が直っても、再開できない。漁港、市場、冷蔵の連鎖。港が使えても、燃料、氷、水、電気、荷役、市場、配送のどれか一つが欠ければ、全体が止まります。しかも水産・食品では、時間が品質を削る。停止1日目と3日目では、同じ在庫の価値が違います。
製造・部品型 —— ラインは動く。でも売上は立たない。自社の設備が無事でも、部材が届かない、製品を出せない、顧客側の検収が止まる。1月6日には工業用水道の送水は維持されましたが、道路と鉄道が止まりました。ユーティリティが無事なら操業できる、は誤りです。
観光・宿泊型 —— 営業できる。でも客が来ない。1月6日、県内の大規模な宿泊施設はすべて営業継続が可能でした。それでも交通機関の運休によりキャンセルが発生し、観光施設も一斉に臨時休館しました。需要側の停止は、自社の努力では止められません。再開の告知、予約の変更、返金の段取りだけが、打ち手になります。
島根県のBCPで最初に書くべきは、耐震補強のリストではありません。「道路と鉄道と港と人が止まった状態で、自社は何日、どの業務を続けられるか」。1月6日に突きつけられたこの問いへの、自社の答えです。
二つの読者層
「うちにはまだ早い」—— 島根県の多くの会社が、そう思ったまま1月6日を迎えました
島根県のBCP策定意向は40.1%(帝国データバンク 島根県版・2026年7月13日公表・調査は2026年5月18〜31日)。全国の50.5%を10.4ポイント下回ります。前年(2025年)は28.7%と過去7年で最も低く、「策定していない」の57.4%が4年連続で意向ありを上回っていました。つまり県内企業の大半は、計画がないまま1月6日の地震を経験しました。
それでも意向が28.7%から40.1%へ動いたのは、あの日「これは他人事ではない」と感じた経営者が確かに増えたということです。問題は、意向が実行に変わらないこと。
島根県の数値は回答企業95社の割合であり、県内全企業の推計ではありません。
中国地方の調査では、策定しない理由の最上位が「必要なスキル・ノウハウがない」で40.5%(2026年調査)。全国調査でも構図は同じで、その背景にはスキル・人材・時間という基本的な経営資源の不足があり、意識の低さではなく構造的な要因が導入を妨げているとされます。やる気の問題ではなく、道具の問題です。
最初の一歩として、BCP-AIで初版を作るところから始められます。事業継続力強化計画(ジギョケイ)の認定は、県内で290件超(令和8年7月末時点)。認定は、取引先や金融機関に「備えている会社」であることを示す材料になります。
1月6日、その計画書は机から出ましたか
計画があること自体は、前進です。ただ、1月6日は既存の計画の実地試験でした。次の4点が書かれていたか、思い出してみてください。
複数交通の同時停止。伯備線、木次線、一畑電車、高速バス3路線が同時に止まる想定はあったか。「JRが止まったら車で」は、道路も規制される前提で書かれていたか。
余震のもとでの再開判断。「1週間は震度5強に注意」の呼びかけが続く中で、いつ通常営業に戻すのか。誰が、何を根拠に決めるのか。
自社の外側の停止。市場、冷蔵、協力会社、顧客側の検収など、自社では直せない停止が反映されていたか。宿泊業なら、キャンセル発生時の予約変更、返金、再告知の手順まで決まっていたか。
発電所関連情報の確認(松江圏)。初動のチェックリストに入っていたか。
島根県内の企業調査では、事業中断リスクへの備えとして「情報システムのバックアップ」を挙げる企業が最も多い。安否確認とバックアップは初動の入口として不可欠ですが、物流、燃料、冷蔵、取引先、入金の連鎖は、別途設計しなければ計画に現れません。
「1月6日で穴が見えた。直したいが、また一から書き直す時間はない」。それが最も多い声です。既存の計画を見直すときは、BCP-AIの再生成機能で初版を作り直せます。
島根県の支援体制
島根県では、行政と支援機関の後押しも整っています。
島根県「事業継続力強化アドバイザー派遣事業」。経営計画を持つ(または持とうとする)県内中小企業に、専門家を派遣する県の制度。申込みと内容の問い合わせは、最寄りの商工会議所または商工会が窓口です。
商工会議所・商工会。松江、出雲、浜田、益田、安来ほか県内各地。ジギョケイ策定支援と経営指導の一次窓口です。1月6日の地震のときには、商工団体などに経営相談窓口が設置されました。
事業継続力強化計画(ジギョケイ)。認定により、金融支援、税制措置、補助金審査上の加点。県内の累計認定は290件超(令和8年7月末時点)。
島根県「事業継続計画(BCP)及び事業継続力強化計画」ページ。県の制度案内の起点です。
しまね防災情報/島根県 道路規制情報。道路、河川、土砂のリアルタイム情報。BCPの「情報収集先」の欄に、そのまま記載できます。
島根県「漁港事業継続計画(漁港BCP)」(水産事業者向け)。自社のBCPと漁港側の復旧計画を接続する視点です。
これらの制度は「計画がある会社」を支援する仕組みです。裏を返せば、初版がなければスタートラインにも立てません。その初版を、BCP-AIで作れます。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
次に揺れるのは、もっと大きな断層かもしれません。
1月6日を「予行演習だった」と言える会社になりましょう。
2026年1月6日の地震で、島根県内の被害は限定的にとどまりました。安来市で一時停電したほかは、工業用水道も止まりませんでした。それでも、列車と高速バスは運休し、観光施設は休館し、宿泊予約は消えました。県の想定には、最大震度7が見込まれる宍道断層の地震が残っています。あの日の「たまたま大丈夫だった」を、「備えていたから大丈夫だった」に変える。最初の草案は、今日作れます。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。