山形では、災害で止まった鉄道が、2本、いまも止まったままだ。
山形県のBCP(事業継続計画)── 県内の災害リスクと、建物が無事でも事業が止まる経路を確かめるページです。
2022年8月3日の豪雨で、米坂線は112か所が被災し、今泉〜坂町間の67.7kmが不通になりました。復旧費は約86億円、工期は約5年の見込みですが、4年余りが経った現在も、JRと山形・新潟両県の協議は続き、復旧方針は決まっていません。走っているのは、代行バスだけです。
2024年7月25日の豪雨では、昼過ぎに庄内・最上で、夜に村山・庄内・最上で線状降水帯が発生し、大雨特別警報が2回発表されました。7月24日から27日の総雨量は、真室川町差首鍋で457.0ミリ。最上川、鮭川、日向川が氾濫しました。この豪雨で被災した陸羽東線(鳴子温泉〜新庄間)も、いまだ運休が続いています。復旧完了は2028年度中の想定です(JR東日本、2026年7月時点)。
道路や鉄道は、いつか誰かが直してくれる。山形の2本の鉄道は、その前提が成り立たないことをすでに示しています。大規模な被災のあとの復旧には、年単位の時間と巨額の費用がかかり、方針の決定にも時間を要します。会社の再開も同じです。待っていても、自動では来ない。誰が、何を、どの順で動かすかを先に決めた会社から、再開します。
山形県の4+1リスク
カード1: 豪雨・洪水・土砂 —— 直近の実体験
2024年7月25日の豪雨では、昼過ぎ(庄内・最上)と夜(村山・庄内・最上)の2回、線状降水帯が発生し、大雨特別警報が2回出されました。7月24日から27日の総雨量は、差首鍋457.0ミリ、新庄420.5ミリ、酒田大沢407.5ミリ。庄内と最上では、平年の7月の月降水量を超えました。
この豪雨で、県内では2人の方が亡くなり、1人の方が行方不明となりました(山形地方気象台まとめ・8月1日時点)。心より哀悼の意を表します。
最上川の中流、鮭川、日向川で氾濫。戸沢村蔵岡地区では、国道を兼ねる堤防が長時間にわたって越水しました。酒田市の大沢地区と観音寺地区の一部では、発災から3週間後も断水が続き(全面解消は9月3日)、酒田市の下水処理場2か所が浸水で機能を停止しました。
2020年7月の豪雨でも、最上川で越水4か所・溢水5か所。2022年8月の豪雨は置賜と県南を直撃しました。同じ最上川水系で、4年間に3回です。
自社で確認すること: 雨量と水位の何をもって「休業」「退避」「設備停止」を判断するか。
カード2: 地震 —— 「災害が少ない県」の解体
実体験もあります。2019年6月18日の山形県沖地震(M6.7)では、鶴岡市で震度6弱。県内で震度6以上を観測したのは、観測史上はじめてでした。住家の半壊4棟、一部破損940棟。
県内の主要活断層帯(国の長期評価)
地震調査研究推進本部は、主要活断層帯で起こる地震の発生確率を相対的な高さで区分しています。県内では、次の活動区間が最も高い区分(Sランク)にあります(2026年1月1日算定)。
- 新庄盆地断層帯 東部(マグニチュード7.1程度)
- 山形盆地断層帯 北部(同7.3程度)
- 庄内平野東縁断層帯 南部(同6.9程度)
この区分は、発生時期や個々の事業所の被害を予測するものではありません。国の評価の区分は、被害の大きさを意味しません。区分が低い断層でも地震は起こり、国は「ランク分けに関わらず、どの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがある」と注記しています。自社の所在地と断層帯の位置関係は、県の被害想定と国のハザードマップで確かめてください。
断層の評価は定性表現で示しています。国(地震調査研究推進本部)は今後30年以内の地震発生確率が3%以上を「Sランク」と表記し、地震後経過率(前回の活動からの経過時間を平均活動間隔で割った値)が0.7以上の活断層には、ランクに「*」を付記しています。出典: 地震調査研究推進本部「山形県の地震活動の特徴」(2026年1月1日算定)/同「今までに公表した活断層及び海溝型地震の長期評価結果一覧」(令和8年1月14日現在)注3
自社で確認すること: 「山形は地震が少ない」を前提にした建物、設備、在庫の置き方になっていないか。
カード3: 豪雪・暴風雪 —— 毎年来る「確実な災害」
特別豪雪地帯を含む全国有数の豪雪県です。雪は「来るかどうか」ではなく「毎年、複数回来る」災害で、出勤、配送、燃料、部材、除雪要員を同時に拘束します。地吹雪とホワイトアウトによる国道と高速の通行止め、鉄道の運休は、冬季の定例のリスクです。取引先が県外なら、峠越えのルート(国道13号、48号、112号、113号)の規制が重なり、物流が止まる可能性があります。
山形県版BCPモデルが「風水害・雪害」を明示的にリスクとして区分しているのは、県自身が雪を経営リスクと位置づけている証しです。
2024年12月から2025年3月の冬は、県内で大雪警報が5回発表され、農業関係の被害額は約6億円でした(令和7年6月18日時点の確定値)。
自社で確認すること: 「大雪の日は仕方ない」で毎年何日、いくら失っているか。運転中止と配送中止の判断基準は、文書になっているか。
カード4: 火山 —— 蔵王・鳥海
蔵王山と鳥海山は、いずれも活火山で常時観測の対象です。噴火そのものより、警戒レベルの引き上げ、立入規制、観光需要の蒸発、降灰による道路・水・農作物への影響が、企業活動の停止経路になります。蔵王は県内最大級の観光資産で、警戒情報だけで予約が減りうる「被害なき停止」の典型です。
自社で確認すること: 噴火警戒レベルが上がった日の、予約、雇用、仕入れの止め方と、顧客への連絡。
カード5: 戻らないインフラ —— 山形固有の第5カード
米坂線は2022年8月に被災し、今泉〜坂町の67.7kmが不通のまま4年余り。復旧費約86億円、工期約5年の見込みで、方針は未決定です。陸羽東線は2024年7月に被災し、鳴子温泉〜新庄間が現在も運休・バス代行で、復旧完了は2028年度中の想定です(JR東日本、2026年7月時点)。
大規模な被災のあとのインフラ復旧は、「数日」ではなく「数年、あるいは未定」の単位で考える必要があります。自社BCPの「○日で再開」の前提は、道路と鉄道の側の現実と噛み合っていますか。
自社で確認すること: 主要な仕入と出荷のルートが1本落ちたときの代替経路と代替輸送手段を、運賃とリードタイム込みで把握しているか。
ハザードマップ: 山形県 河川砂防情報/山形県 地震対策基礎調査/国土交通省ハザードマップポータル
無傷でも、止まる
あつみ温泉 —— 建物より先に、営業が止まった(2019年山形県沖地震)
2019年6月18日、午後10時22分。鶴岡市で震度6弱。県内の建物の全壊はゼロでしたが、あつみ温泉では送湯管が折れ、宿泊施設8軒で温泉設備に被害が出ました。半数は営業を続けましたが、残る半数の再開は7月1日までずれ込む見込みとされました。約2週間、温泉街の売上の一部が止まりました。
ある老舗旅館は、瓦の一部落下と水漏れで当面の休業を決め、宿泊客約140人を翌朝から順次送り出しました。折しもサクランボ狩りのツアーシーズンでした。
観光業の停止条件は、「建物の損壊」ではなく「不安」です。余震と報道だけで、需要は消えます。
移動店舗車 —— 備えていた会社は、翌日から動いた(同じ地震)
同じ地震で、県内の地方銀行の支店の一つが使用不能になりました。同行は翌19日、移動店舗車の行き先を急きょ変更し、被災した支店の業務(預金の引き出しなど)を代替しました。
もともと店舗の統廃合地域向けに用意していた代替手段が、災害時にそのまま事業継続の道具になった。「代替拠点と代替手段は、平時に使っているものしか災害時に動かない」の好例です。
鉄道が止まると、駅前も止まる(米坂線・陸羽東線)
鉄道の長期不通は、鉄道会社だけの問題ではありません。通学、通院、観光客の流れが変わり、沿線の小売、飲食、宿泊の客数が構造的に変わります。代行バスは走りますが、所要時間、本数、積載は列車と同じではありません。
自社が「被災地」でなくても、顧客、従業員、貨物の通り道が被災地なら、事業は形を変えて止まります。
そして山形では、この「通り道の停止」が、雪で毎年ミニチュア版として反復します。年に数日、雪で物流が止まった日を記録しておくことが、大災害時の代替経路計画のたたき台になります。
二つの読者への問い
山形の現在地
帝国データバンク山形支店の2026年調査(9回目・県内271社対象・有効回答138社)では、BCP策定率は23.9%。前年から2.4ポイント上がり、過去最高の水準で、全国平均の21.4%を上回ります。一方で、未策定は40.6%(前年比+2.8ポイント)。策定率と未策定率が同時に増え、取り組みの進度に幅が出てきています。
回答企業138社の割合であり、県内全企業の推計ではありません。
まだ作っていない会社へ
未策定の理由は、全国調査で「スキル」「人材」「時間」の不足が上位です。意識ではなく、資源の問題。だからこそ、ゼロから書かない。
山形には追い風があります。山形県版BCPモデルは、「大地震」「風水害・雪害」「感染症」の3リスク×「建設、製造、卸小売、宿泊、飲食、生活関連サービス、汎用」の7業種のひな形を無償で提供しています。雪害を明記した県モデルは希少で、山形の実態に合う入口です。
県内・村山地域のある機械部品メーカーは、2020年からBCPを策定し、年1回の安否確認と防災訓練、設備メーカーの集約による修理体制の事前確保、耐震補強、排水強化、太陽光と蓄電池まで、段階的に拡張してきました(地元テレビ局の報道より)。経営者の言葉の趣旨はこうです。起きてから考えるのと、事前に用意した選択肢から選ぶのでは、スピードがまったく違う。最初から大きくせず、一つできれば次が見えてくる。
作ってある会社へ
その計画は、2024年7月級の豪雨(特別警報、1か月を超える断水、鉄道の長期不通)、冬に止まる物流、震度6強の内陸直下の三つを、どれも想定していますか。
代替輸送ルートは、運賃とリードタイム込みで書いてありますか。1か月を超える断水でも成立する衛生と製造の手順はありますか。安否確認は「訓練で実測した所要時間」を持っていますか。移動店舗車の例のように、「平時から使っている代替手段」になっていますか。
事業継続力強化計画(ジギョケイ)の県内累計認定は740件を超えています(令和8年7月末時点)。策定済み企業の次の一歩として、認定による税制措置、金融支援、補助金審査上の加点などがあります。
山形の支援環境
山形県「BCP(事業継続計画)について」。県版BCPモデル(3リスク×7業種)、災害対応シミュレーション型のセミナー、BCP・ジギョケイに基づく防災設備導入への補助、専門家派遣。県の補助金は、公募の時期と条件が年度により異なります。最新の内容は県のページで確認できます。
中小企業庁「事業継続力強化計画」。国の認定制度。税制措置、金融支援、補助金審査上の加点といった支援策があります。
山形県よろず支援拠点。2024年7月豪雨の際には、被災した中小企業・小規模事業者向けの特別相談窓口が置かれました(国の支援措置)。
商工会議所・商工会、金融機関。上の移動店舗車の事例が示すとおり、地域金融機関自身がBCPの実践者です。メインバンクとの災害時の資金繰りの事前相談を、推奨項目に。
事業継続力強化計画の認定や、補助金・融資などの可否は、各制度の要件と審査によります。BCP-AIで作成した計画がそれらを保証するものではありません。本ページの認定件数は、BCPを策定した企業の割合や利用者数とは別の数値です。
雪の日の代替ルートから、震度6強の再開手順まで。最初のたたき台を、今日作れます。
県版モデルという入口は、すでにあります。
BCP-AIは、所在地や業種などの質問に答えるだけで、自社のBCP(事業継続計画)の初版を作成できます。